『トネリコの魔女』序章 新月の夜の夢 000

トネリコの魔女 序章 新月の夜の夢 000
 目の前のすべてを愛しなさい
 幸福を得る為に
 絶望をる為に
 貴方あなたは生かされた

 ——その言葉は、手にした本の最初のページに綴られていた。
 夜色に染め上げられた革張りの表紙の上には金箔の装飾が施されており、月や星、花などのモチーフがキラキラと輝いている。星の中心には王家の紋章が刻まれ、背表紙には古エルガスト語で〝残夜ざんや黙示録もくしろく〟と書かれていた。大切に保管されていたのだろうか——傷みはほとんど見られず、表紙を止め付ける銀の蝶番ちょうつがいも錆一つ見当たらない。
 少女は本をそっと閉じて胸に抱えた。
 聖堂を彩るステンドグラスからは月明かりが差し込み、緋色の絨毯の上に二つの影を作っている。少女の隣には、同じくらいの背丈の少年が立っていた。
 「僕との約束、憶えてる?」
 宝石のような緋い瞳が少女に近づき、問いかけた。少女はコクリと頷き返事をする。
 「忘れないよ、ずっと」
 二人はどちらからともなく手を取り合うと、指先に力を込めて互いの存在を確かめた。
 「どうか貴女に加護があらんことを」
 「どうか貴方に加護があらんことを」
 祈りを捧げ終え、二人は別々の方向へと歩き出す。
 まるでの先の運命を指し示すかのように——