読書記録『メフィスト』

こんばんは、ねこめです。第二十七回目は小山清の『メフィスト』です。太宰治の疎開中に三鷹の家で留守番をしていた小山が、来客に対して太宰のフリをする物語です。

ファウスト劇の中にメフィストフェレスがファウスト博士に化けて訪問の学生をあしらう一齣ひとこまがあるが、私はあれを思いついたのである。

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タイトルは、小山がつけていたものを太宰が『メフィスト』に改題したそう。手を加えられた原稿を小山が受けとった時、太宰は世を去っていたらしいのですが、自分の作品をちゃんと読んでくれていたというのはきっと感慨深いでしょうね。くぅ……羨ましい……!

閑話休題(бωб)

最初は、小山演じる太宰治を滑稽だなと面白く読んでいたものの、来客の女性とのやりとりを読み進めるのがだんだん辛くなってきました。

 彼女はなにか可笑おかしさをこらえている表情を示したが、
「でも先生には、どうせ妾宅なんか実現出来っこありませんわ。」
 やられたッ。見事、うっちゃりを喰った。女とあなどり不覚を取った。われにもあらず敵の戦力を誤算していた。陣容を立てなおさなければならぬ。
「ひどいね。ひどく軽蔑されたもんだね。君には僕がそんな意気地なしに見えるかね。よし、僕は僕のあこがれをきっと実現して見せるから。僕はきっと妾を持つ。妾に子供が出来たら、うんと可愛がってやるんだ。妾の生んだ子っていうのは、親にしてみれば、一しお不憫ふびんなものだろうな。それに妾の子っていうのはいいじゃないか。ほら、芝居などでは男の子だと、あらい柄のかすりの着物を着て、長いたもとでね、帯なんかも房々とした蝶結びに結んでいて、そして例外なく美少年だ。近所の悪たれ小僧共にじめられては女の子に同情される役だ。あれはいいね。君だって覚えがありやしないかな。君の少女時代に近所にそんな子が一人位いたろう。そして君はその子のことをこっそり心の中で思ったりしたのだろう。」
 私はただもう口から出まかせにしゃべった。私はいま軽くうっちゃりを喫して、危くべそをかくところだったのだが、そんな出鱈目を喋っている中に、どうやら表情の緊張だけは揉みほごすことが出来た。彼女は私が莫迦ばかなことを云うのを、ただ黙って笑っている。

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上記は会話の一部です。この空気よ!!!(キツイ)
動揺すると、次から次へ捲し立てるように喋ってしまうのは何故でしょうかね。不自然なこの語りが辛い……そして嘘に嘘を重ねていく様は、物語越しのこちらまで嫌な汗をかいてしまいます。
わたしなら早くこの女性にはお帰り願いたいけど、なんとなんと小山は会話を続けていくのです。
「ああ無理、もうやめてあげて〜」と思いながら顚末を見守りました。
ほんの少しの出来心だったとしても、ユーモアやジョークで済まない域に達しないよう気をつけていきましょう。

小山扮する太宰の姿を見たい方はぜひ読んでみてくださいね。

青空文庫より『メフィスト』小山清
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