読書記録『卍』

こんばんは、ねこめです。第二十四回目は谷崎潤一郎の『卍』です。
柿内園子が〝先生〟のところを訪ね、自身の体験した事件を語る形で物語が展開されていきます。

先生、わたし今日はすっかり聞いてもらうつもりで伺いましたのんですけど、折角せっかくお仕事中のとこかまいませんですやろか? それはそれは詳しいに申し上げますと実に長いのんで、ほんまにわたし、せめてもう少し自由に筆動きましたら、自分でこの事何から何まで書き留めて、小説のような風にまとめて、先生に見てもらおうかおもたりしましたのんですが、……実はこないだ中ひょっと書き出して見ましたのんですが、何しろ事件があんまり、どういう風に何処どこから筆着けてええやら、とてもわたしなんぞには見当つけしません。そんでやっぱり先生にでも聞いてもらうより仕様ない思いましてお邪魔に出ましたのんですけど、でも先生わたしのために大事な時間滅茶々々めちゃめちゃにしられておしまいになって、えらい御迷惑でございますやろなあ。ほんまによろしございますか?

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上記の書き出しのとおり、最初から最後まで全て大阪弁且つ、複雑で長〜いお話です。タイトルになっている『卍』の字の如く、二組の男女の関係が交錯していきます。
柿内園子と、夫の孝太郎、園子と恋愛関係の女性である徳光光子と、光子の恋人である綿貫栄次郎の四人が織りなすドロドロの恋愛ドラマです。

園子が光子と出会ったのは天王寺の方にある女子技芸学校で、二人は同性愛の噂を立てられます。噂のままで終わっていればどんなによかったか……ここからどんどん狂っていきます、それぞれの人生の歯車が……。

もう先生にはお分りになっておられますやろが、その、わたしが無意識のうちにモデルにしてた人いうのんが、――どうせ新聞にも出ましたのんですから、いうてしまいますが、――徳光光子とくみつみつこさんやのんです。(作者註、柿内未亡人はその異常なる経験の後にも割にやつれたあとがなく、服装も態度も一年前と同様に派手できらびやかに、未亡人というよりは令嬢の如くに見える典型的な関西式の若奥様である。彼女は決して美女ではないが、「徳光光子」の名をいう時、その顔は不思議に照り輝やいた。)

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序盤の語りで作者註に〝柿内未亡人〟とあることから、夫の孝太郎は何らかの理由で亡くなると予想できます。
謀り合い、探り合い、騙し騙され、のめり込んで抜けられない……読後の感想を一言で表すなら「こんな人間関係は嫌だ」です。

前半は物語がどこに向かうのかよく分からないまま、ぐだぐだ進んで戻って進んでという感じですが、後半からラストに向けて段々と畳み掛けていきます。是非、事の顛末を見届けてください。

青空文庫より『卍』谷崎潤一郎
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