読書記録『堕落論』

こんばんは、ねこめです。第九回目は坂口安吾の『堕落論』です。

第二次世界大戦の戦時中、戦後の世相を斬る本作。当時の政治や思想を垣間見ることができ、その中での「堕落」について語られています。

あの偉大な破壊の下では、運命はあったが、堕落はなかった。無心であったが、充満していた。猛火をくぐって逃げのびてきた人達は、燃えかけている家のそばに群がって寒さの煖をとっており、同じ火に必死に消火につとめている人々から一尺離れているだけで全然別の世界にいるのであった。偉大な破壊、その驚くべき愛情。偉大な運命、その驚くべき愛情。それに比べれば、敗戦の表情はただの堕落にすぎない。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42620_21407.html

戦争を体験したことのない身からすると、感覚的にわかりそうでわからない、というのが正直なところです。ただ、学生時代に平和学習で学んだ悲惨で恐ろしい「戦争中」とは違った印象を受けました。

私はおののきながら、然し、惚れ惚れとその美しさに見とれていたのだ。私は考える必要がなかった。そこには美しいものがあるばかりで、人間がなかったからだ。実際、泥棒すらもいなかった。近頃の東京は暗いというが、戦争中は真の闇で、そのくせどんな深夜でもオイハギなどの心配はなく、暗闇の深夜を歩き、戸締なしで眠っていたのだ。戦争中の日本は嘘のような理想郷で、ただ虚しい美しさが咲きあふれていた。それは人間の真実の美しさではない。そしてもし我々が考えることを忘れるなら、これほど気楽なそして壮観な見世物はないだろう。たとえ爆弾の絶えざる恐怖があるにしても、考えることがない限り、人は常に気楽であり、ただ惚れ惚れと見とれておれば良かったのだ。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42620_21407.html

あまりに自分の中での戦争中のイメージと掛け離れていたので、この『嘘のような理想郷』が嘘なのでは?と思わずにはいられなかったです。しかしながら、もしこれが真実ならば、現代の方がよっぽど闇深く、堕落していますよね……。

人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。
 戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42620_21407.html

ここに人間の真理を見たように思います。『戦争に負けたから』の部分を他のことに置き換えれば、わたしたちの日常にも当てはまるのです。

結局のところ、人間はみな弱く脆い生き物だから堕ちて当たり前。ただ、堕ちる処まで堕ちるには相応の強さも必要で、どん底に辿り着いて初めて救いが見えてくる。だからこそ、ちょっと堕ちたくらいで全てを諦めたような悲観さに浸る必要は全然無くって、むしろどん底まで堕落しよう、新しい自分を見つけるために。というエールを感じました。

最近堕落しているという自覚のある方は是非読んでみてください。

青空文庫より『堕落論』坂口安吾
https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42620_21407.html