読書記録『或阿呆の一生』

こんばんは、ねこめです。第二十二回目は芥川龍之介の『或阿呆の一生』です。断章「四十九 剥製の白鳥」にあるように、彼(芥川)の自叙伝として書き上げられました。

彼は最後の力をくし、彼の自叙伝を書いて見ようとした。が、それは彼自身には存外容易に出来なかつた。それは彼の自尊心や懐疑主義や利害の打算の未だに残つてゐる為だつた。彼はかう云ふ彼自身を軽蔑せずにはゐられなかつた。しかし又一面には「誰でも一皮いて見れば同じことだ」とも思はずにはゐられなかつた。

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冒頭の久米正雄宛の文章に記された日付は「昭和二年六月二十日」。芥川が服毒自殺したのが同年の七月二十四日なので、亡くなる一カ月ほど前に書かれたもののようです。
病も患っていて、近い将来死が訪れることは感じ取っていたと思います。もしかすると、最期は自殺すると決めていて、その前に人生を振り返り、文字に起こして清算することで心の整理をしたかったのかもしれません。

断章で構成されていることもあってか、一通り読んだ後に、まるで走馬灯のようだなと感じました。人生の断片が、一冊の本のページをパラパラとめくるように流れていくイメージです。

中でも個人的に印象的だったのは、断章「二十三 彼女」の次のシーンでしょうか。

それは彼等には始めてだつた。彼は彼女と一しよにゐる為には何を捨ててもい気もちだつた。
 彼等の自動車に乗つた後、彼女はぢつと彼の顔を見つめ、「あなたは後悔なさらない?」と言つた。彼はきつぱり「後悔しない」と答へた。彼女は彼の手をおさへ、「あたしは後悔しないけれども」と言つた。彼女の顔はかう云ふ時にも月の光の中にゐるやうだつた。

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「彼女」は後に妻となる「塚本文」のことかと思います。とてもロマンチックだなと思わず頬が緩みました。芥川が彼女に宛てた恋文も有名で、そちらも情熱的で可愛らしい文章ですよね。

辛いことも嬉しいこともギュッと詰まった短編小説なので、気になる方は是非ご一読あれ!

青空文庫より『或阿呆の一生』芥川龍之介
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